自転車と家族の日記

My Life with bicycle

小児気管支喘息ガイドラインの問題点 その1

今日,東京、品川に住んでるという見知らぬ人から電話があった.

電話してきたのは、8ヶ月の乳児のお母さん,風邪を引いて何度か喘鳴が出ている.入院するほどではない.
しかし,喘息になる可能性が高いから,オノンって薬をずっと服用しなさい,って言われている.
こんな小さい子に,本当に薬を続けることが必要か?飲まなくてはいけないのか?
わたしの書いたHPを見てとっても救われた。同じ方針の医療機関を教えて欲しい。

とのこと。ものすごく切実だった。

たまに電話掛かってくるけど,そんなのは氷山の一角です.
実際ははるかに多くの人が,過剰診療で悩んでるんでしょうね.

実は、これってガイドラインの責任です.

以下,ガイドラインが患者を不幸にしている件について書いてみます.



 医療においては医師の裁量権が非常に大きく,同じ疾患でも個々の医師によって治療にばらつきがあります.もちろん,“良い治療”を行う医師が多いと思いますが,一部で“とんでも治療”が行われているのも厳然とした事実です.なお,ここでの“良い治療”とは,特別に良い治療という意味ではなく,標準的な治療のことです.“標準的な治療”はほとんどの場合,患者にとって最も治療対効果が大きい“最良の治療”だからです.ちなみに,わたしだけ特別に良い治療を受けたい,というのは米国では可能ですが,日本では不可能です.その代わり,誰でもが最高レベルの医療を受けることができるということで,日本の医療制度はとっても優れたものだと思います.なお、アトピーなどの慢性疾患で,高いお金を出して“特別な治療”を受ける人もいますが,100%インチキです.

 医学の世界では,治療や診断は日進月歩です.医療を担当する医師は何十万人もいますので,“良い治療”の情報を隅々まで伝えるのは困難です.また,その情報が正しいものか,いかがわしい物か,個人の医師の判断では難しいわけです.

 そこで,各学会が,自分の専門領域のガイドラインを作るようになりました。良い治療がもっと一般化すれば、国民全体としてのQOLが上がります.また医師にとってもガイドラインを参照すれば良いわけで,情報の集約ができます.情報の取捨選択には大変な労力が掛かりますので,とってもありがたいことです.

 ところが,こういったガイドラインの弊害が思わぬところで出ているのです.気が付いている人は少ないでしょうね.そのひとつの例を示します.

 子どもの病気でもっともガイドラインが普及しているのは,中耳炎と気管支喘息です.だけど,ガイドラインが作られて以来,ものすごく中耳炎と気管支喘息の診断が増えてしまいました.なぜでしょうか?

 中耳炎や気管支喘息は,良くある病気です.対応するのは,ほとんどの場合、プライマリ・ケアです.開業医とか,中小の病院で勤務している医師ですね.ところが,ガイドラインを作っているのは誰かと言うと,大学病院や大病院にいる専門医であることが多いのです.プライマリ・ケアの医師の能力が低いから,,というわけじゃなく,ガイドラインをまとめるためには,大きな組織力が必要です.当然,病院の方が組織がしっかりしています.プライマリ・ケアの医師が集まってプロダクトを作るというのは極めて難しいのです.

 専門医はその病気を治すことに熱心です.耳鼻科医は中耳炎を,アレルギー専門医は気管支喘息を,何とか治してあげようと思うのは当然です.ですので,ガイドラインは“治療”を中心に記載されています.そのガイドラインをプライマリ・ケアでも参照することになるのですが...ここに大きな落とし穴があります.

 大病院では,完全な中耳炎,完全な気管支喘息が受診します.ところが,プライマリ・ケアで受診する患者は,“中耳炎かもしれない”や“気管支喘息かもしれない”患者が大部分です.その多くはウイルス感染に伴う症状で,要するに風邪です.もちろん,患者は治療を求めて病院に来るのですが,何度も書いてますが,風邪に治療をしても無駄です.

 ここでガイドラインが影響します.プライマリ・ケアの医師も,「もし風邪でなかったらどうしよう?」とか、「患者に満足してもらいたい」という思いから,どうしても治療したくなるのが人情です.ガイドラインを読んで、目の前の患者は,中耳炎として治療しておこう,喘息として治療しよう,という意識が働いてしまうのですね.結果として風邪が、“中耳炎”や“気管支喘息”と診断されてしまうことになります.つまり,“治療するため”のガイドラインが,中耳炎や気管支喘息を増やしてしまうという結果になっているのです.

 また、プライマリ・ケアに大病院の考え,「何としても治療しよう.」を持ってきたとします.治療優先の考えは,裏返すと「治療しないままだと悪くなる!」ということにつながります.確かに重症なら治療した方が良いでしょう。だけど、中耳炎も喘息も、軽症になればなるほど,治療対効果が悪くなる,つまり「治療してもしなくても,その後の経過はそれほど変わらない」病気なのです.絶対に治療が必要なのは,ごく一部の患者だけです.ですので,プライマリ・ケアであまりに治療に前のめりになると,かえって患者のQOLを落としてしまうことになりかねません.

 患者は人間です.当たり前ですが生活もあり,もしかしたら他の病気も持っているかもしれません.病院にかかる暇がなかなかないかもしれませんし,お金に困っていることもあり得ます.医師が見ているのは病気だけです.患者の生活全てを見ることはできません.病気はあくまでも患者の生活の一部分でしかないのです.

 中耳炎や軽症の喘息のように、すぐに生命に直結するわけではない病気では,患者の生活の中でその病気がどのくらいのウェイトを占めているかを考えないといけません.必ずしも“治療しなくてはいけない!”ってことはないのですね.

 このように,大病院が作ったガイドラインってのは,特殊な例が対象なので,一般化できないものなのです.現状、プライマリ・ケアでガイドラインを参照することは、専門医の考え方を持ち込むことになるので、必ず過剰診療になります。だから、先ほどの母親のような訴えが増えているのでしょうね。

 他にも色々問題はありますが,,,今回はこの辺で.


学会の討論会の様子
IMG_8314gairai.jpg

めちゃくちゃタイムリーな電話がかかってきたので、思わず書いてしまった。
立場が違うと、理解してもらうのはきわめて困難だ。

スポンサーサイト
  1. 2013年09月03日 21:48 |
  2. 風邪はぜったい治療するな
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2

コメント

同感です!

ガイドラインの弊害は「にわか専門開業医」を作ってしまうことだと思います。
ガイドラインにより専門医になったつもりで、喘息治療が必要ない軽症患者を治療してどんどん口コミで広がっていくのでしょうね?

「喘息様気管支炎」が「喘息」と診断されて治療されてしまう過剰診療は誰かがくい止めなければダメですね!

中耳炎ガイドラインにも同じことが言えますよね!
先日のwsにも毎日1人は耳鼻科に紹介されるの先生もおられましたね。
たぶん氷山の一角なんだと思います。

でも「何でガイドラインを守らないの?」と言う医学界の風潮が嫌ですよね!

先生!各学会の壁に負けずに頑張って下さい!

  1. 2013/09/04(水) 01:34:42 |
  2. URL |
  3. A木 #-
  4. [ 編集 ]

Re: 同感です!

A木先生 ありがとうございます。

> ガイドラインの弊害は「にわか専門開業医」を作ってしまうことだと思います。
> ガイドラインにより専門医になったつもりで、喘息治療が必要ない軽症患者を治療してどんどん口コミで広がっていくのでしょうね?

まったく同感です。自然に治るのを「直してあげる」って伝えることは、犯罪に近いとわたしは思っています。
って、言い過ぎか?

> 「喘息様気管支炎」が「喘息」と診断されて治療されてしまう過剰診療は誰かがくい止めなければダメですね!
> でも「何でガイドラインを守らないの?」と言う医学界の風潮が嫌ですよね!
>
> 先生!各学会の壁に負けずに頑張って下さい!

ありがとうございます。まあ、しかし山は動きませんよね。
医療制度が変わらないと厳しいかも。。。まあ、ぼちぼちやっていきます。
  1. 2013/09/04(水) 12:34:04 |
  2. URL |
  3. たつお@奈良 #-
  4. [ 編集 ]

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック URL
http://tatsuonobicycle.blog10.fc2.com/tb.php/1221-4ba7c89d
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)